鷹夫季寄せ 夏

五月

口中を五月の風に薄荷菓子    大津絵

鷹夫季寄せ 春

勤抽出

梅一分弔辞の終りさやうなら   渚通り
亡き人がわれを忘るる夜の梅   風の祭
紅梅白梅風の祭と思ひけり    風の祭  
黒髪の中に耳あり夜の梅     千年

春の月

西行のごとき春月藁焼く火    大津絵
春月の海に没り海温まる     風の祭
春満月猫の欠伸の怖ろしき    風の祭
真つ黒な帽子の上の春の月    千年
松並木一本づつに春の月     カチカチ山
白妙の瀧にかかれる春の月    カチカチ山

辛夷

一つ一つ開いて百の辛夷かな   千年

桃の花

桃咲いて闇の薄着の始まりぬ   渚通り
石ごとに水は奏でて桃の花    大津絵
手話の愛は胸に手を置く桃の花  春の門
欠伸してこの世潤めり桃の花   千年

花了る家の二階の燈がくらし   渚通り
神前の新婦をくらめ花満てり   渚通り
一酔の後の吉野の花月夜     大津絵
かはらけを湖に投げたる花遍路  春の門
花満ちて鴉が熱し上野山     風の祭

夜桜

熱湯へ水すこし足す桜の夜    渚通り
蠟涙のつつとはしりぬ桜の夜   大津絵
夜桜にすこし早くて鴨食へり   春の門
遊行とは夜桜に鳴る吉野川    春の門

茎立

茎立や法師の息の酒臭き     千年

菠薐草

根が紅きこと恥かしきはうれん草 渚通り

春耕の人がゆつくり女なり    春の門
眼光をふつと消しまた耕せる   風の祭

竹の秋

遠くより母と知りをり竹の秋   渚通り

桜草

指組めば指が湿りぬ桜草     渚通り
湯浴み後の眼鏡がくもる桜草   渚通り

押花の菫見てゐて過去が冷ゆ   渚通り
アメリカの風吹いてゐる菫かな  春の門

菜の花

知らぬ町過ぐ空腹の花菜色    渚通り
菜の花の道を選びし自愛かな   カチカチ山

春昼

影が先づさし春昼の箒売     渚通り
春昼の振つて音する伊勢みやげ  大津絵
春昼の櫛に絡まるもの哀れ    春の門
欲しきものに脇息家来春の昼   千年
大仏も眠たからうに春の昼    カチカチ山

艶聞におぼろの柱ありにけり   春の門
顔寄せて唇まだ遠き朧かな    カチカチ山
地獄絵のをみな悶える朧かな   カチカチ山

初蝶

初蝶の死してそれより蝶の春   春の門 
初蝶の流るる中の美辞麗句    風の祭
少女かもしれぬ初蝶通してやる  千年

春の鳥

くれなゐの舌を使へり春の鳥   大津絵

蝌蚪

掌に水のにほひの蝌蚪ふたつ   渚通り
蝌蚪の池仏事の端の映りをり   大津絵
国宝の風吹いてをり蝌蚪の紐   風の祭
蝌蚪泳ぐ傍らの蝌蚪動かして   千年

孕み鹿

起つときの脚の段取り孕み鹿   千年

桃の節句

桃の日や高空にある風の音    千年

雛市

男来て鍵開けてゐる雛の店    春の門

仏生会

石くれも情に加はる仏生会    大津絵

法然忌

貝の砂椀に残れり法然忌     春の門

卒業

手のやがて拳となりぬ卒業歌   風の祭

春の暮

果樹園の奥に人ごゑ春の暮    大津絵
らふそくの炎の芯にある春の暮  千年
紙に火を近づけてゆく春の暮   カチカチ山

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